東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)166号 判決
原告主張の審決取消事由の有無について検討する
1 1の主張について
成立に争いのない甲第三号証によると、審決掲記の実用新案公報は、名称を「鉄骨ビニールハウスのビニール止め具」とする考案に係るものであり、その明細書部分には、審決のいう「水平開口幅を狭めた断面形状ほぼ凹形の帯状受け具」に関する記載があり、図面として、第一図ないし第四図があるところ、引用例に係る第一図及び第三図は、別紙(二)のとおりであつて、第一図は、右考案に係るビニール止め具を説明するための斜視図と、同第三図は、ビニールを止めた状態を示す断面図と、それぞれされており、両図において、10と表示されたものが前記の帯状受け具であることが認められる。
ところで、右認定の事実を考慮しつつ、両図を検討すると、第一図は、透視図法による斜視図であつて、右考案における実施例として、前記帯状受け具10を含む各部材の全体にわたる形状とそれぞれの部材の組合わせ方との各概要を明らかにすることを主な目的とし、これに最も適合すると考えられる方向から、全体的形状の概要を描写した図面であり、第三図は、帯状受け具を含む各部材が、組合わされた状態のものを、右帯状受け具の長手方向直交端面部をもつて、帯状受け具の詳細な形状をはじめ、その他の各部材の組合せ状況など、相互の関係を明らかにすることを目的として描かれた図面であると解される。
このように、両図の目的が相互に異なつているのであるから、前記帯状受け具(ビニール膜の支持フレーム)に限つてみると、これら両図に接する者は、両図の各目的に照らして、帯状受け具の直交端面部の形状の詳細がいかようであるかについては、第三図によつてこれを知り、また、それが長手方向にどのような形状を呈しているか、すなわち、長手方向に真直ぐに連続するものであるかどうかについては、第一図によつてこれを知り、かくして両図に対する総合的思考によつてその全体の形状を把握認識するであろうことは疑いを容れない。そして、両図を検討しても、このような思考方法によつて帯状受け具の形状を把握認識するについて、これを妨げる特段の事情は見当らない。
なるほど、両図の見ようによつては、右帯状受け具のカールの部分や両側板の高さと水平幅との対比上若干の差異があるように見られないではない。しかし、技術的思想の実施例を説明しようとする図面、ことに第一図は、もともと斜視図であるうえ、正確な寸法に基づく遠近法を用いた図法によつてないしは設計図のような正確さをもつて描かれたものではないことはその記載自体からみて何人にも明らかであるから、同図のみによつてカール部の形状の詳細や両側板の高さと水平幅の対比関係などを端的に断じてしまうことができないことは、いうまでもない。因みに、成立に争いのない甲第二号証によると、本願意匠においても溝形鋼板の高さと水平幅との比は、その断面図と使用状態を示す参考図とでは、一見異なり、使用状態を示す参考図の方がより平たく図示されているが、これとても、両図の目的に照らし、溝形鋼の長手方向直交端面の正確な形状を知るのには右の断面図によるべきことになるであろうから、両図の間に右のような差異があるからといつて、そのことだけで本願意匠の形態が特定していないということはできない。
そうしてみると、審決が引用例に基づいて意匠を認定するに当り、全体的形状特に長手方向に同一形態で連続するものであることについては第一図により、また、その直交端面の形状については第三図の10の部分により認定したとの点は、極めて当然であり、前掲甲第三号証を子細に検討しても、引用例には、その記載により審決認定のとおりの一個の意匠を統一的に把握認識するのに妨げとなる特段の事情は見当らない。原告が挙示する判決は、本件と事案を異にし適切でない。
よつて、原告の1の主張は採用できない。
2 2の主張について
成立に争いのない甲第四号証によると、昭和五四年一二月一八日付でされた拒絶理由通知書には、原告主張のとおりの記載があることが認められる。
ところで、右記載中「昭和四九年実用新案出願公告第四一〇六七号の『鉄骨ビニールハウスのビニール止め具』(八三頁、八四頁)の記事」とは、前掲甲第三号証と対比すると、右公報の明細書部分を指称しているものと解されるから、右拒絶理由通知書では、右公報の明細書及び「水平開口幅を狭めた断面形状ほぼ凹形の帯状受け具」の記載がある第一図と第三図の10の部分を掲記し、これを引用したとみるべきであるのに対し、審決では、右の明細書の部分を特に限定し、これに記載の「水平開口幅を狭めた断面形状ほぼ凹形の帯状受け具」としたにすぎないものというべきである。したがつて、原告(審判請求人)に対し、改めて拒絶理由を通知して意見を述べる機会を与えるまでもないことは多く論ずるまでもなく明らかである。
原告の2の主張も採用の限りでない。
3 3の主張について
前1に判断したところにしたがい前掲甲第二号証、第三号証を検討すると、本願意匠と引用例から認められる意匠との各態様は、それぞれ次のとおりである。
本願意匠は、溝形鋼状において、その両側板(立上がり)部分の上方を内側に大弧状で垂直方向より約五五度内側にハの字状に傾斜させ、その上端部分を外方に円に近い輪状としてカールし、その内側を中空に形成し、長手方向の直交端面は同一(長手方向に真直ぐに連続)で、その端面の両側板の高さ1に対し、溝形鋼状の立上がり部分を除く水平幅ほぼ二・一六、カール部の直径ほぼ〇・三四からなるものである。
これに対し、引用例に記載の意匠は、溝形鋼状において、その両側板(立上がり)部分の上方を内側に小弧状で垂直方向より約二〇度内側にハの字状に傾斜させ、その上端部分を外方に水滴状にカールさせてその内部を中空に形成し、長手方向の直交端面は同一(長手方向に真直ぐに連続)で、その端面の両側板の高さ1に対し、溝形鋼状の立上がり部分を除く水平幅ほぼ一・八、カール部の高さほぼ〇・二七、その幅ほぼ〇・二二からなるものである。
このように、両意匠の態様を比較すると、両者は、共に溝形鋼状の側板部を弧状で内側にハの字状に傾斜させ、その側板の上端部分を外方にカールさせその内部を中空に形成し、同一の直交端面を有する長手方向に真直ぐ連続する形態を有するものであつて、このことから、観者に強い共通感を抱かせるものである。
なるほど、右のカール部の長手方向直交端面が、本願意匠ではほぼ円に近い輪状であるのに対し、引用例のものでは水滴状であること、両側板の立上がり部分が、前者では大弧状であるのに対し、後者では小弧状であるが、これらの相違は、前記両者の構成態様に照らして極めて限られた小部分における僅かな差異にすぎず、また、長手方向直交端面における両側板の高さと水平幅及びカール部の大きさとの対比関係を示す数値からも明らかなように、本願意匠の方が引用例のそれよりも溝状部分が平たく浅い印象を与える点で若干の差異はある。しかし、これらの差異を念頭において子細に観察しても、両意匠が前記のような共通の態様を有していることから生ずる強い共通感を左右するには至らないものである。
そうすると、本願意匠と引用例に記載の意匠とは類似するというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
よつて、原告の3の主張も採用できない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。